Withコロナ時代に新たな気づきや生活・行動の変化がおこり健康の大切さを意識するようになりました。
本コンテンツは、「 チョット役立つお口の情報 」をコンセプトにエッセイを中心にご紹介いたします。

ess01夫婦の秘密

昭和大学歯学部高齢者歯科学講座教授

佐藤 裕二

たとえ夫婦であっても,お互いのお口の中の状況をよく知らない場合も多い。相方が入れ歯を使用しているのを知らないこともある。特に女性においては,入れ歯を使っている事を夫に黙っていることもままあるようである。いくつになっても恥じらいを忘れない恋人のような夫婦である。

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ただ,この場合,困ったことがある。就寝時も含めて,入れ歯を使い続けてしまうことである。義歯は歯ブラシで磨くだけではなく,入れ歯洗浄剤で清掃することが大切である。また歯ぐきを休める時間も必要である。そうしないと,目に見えない汚れ(カビなど)が清掃できないので,口の中の粘膜が赤くただれてしまう。

私の総入れ歯の患者さんでも,入れ歯を支える粘膜が真っ赤になってる方に,よくよく聞くと,「夫に秘密にしているので,はずして入れ歯洗浄剤を使えない」のだと言う。このような場合には,「入浴時にはずして,歯ブラシでよく洗った上で,ぬるま湯で入れ歯洗浄剤を15分程度使用する」ようにアドバイスした。その結果,入れ歯を支える粘膜が良い状態に戻ったので,「夫婦で一緒に入浴しているのでは無い」ことがわかった(笑)。

このような,いつまでも恥じらいを忘れない「恋人同士」のような夫婦も素晴らしいが,すべてを理解し合う戦友のような夫婦も素晴らしいと思う。先立たれた夫の総入れ歯を,形見としてご自分の口に入れて使われている奥さまが,「入れ歯を支える歯ぐきが痛い」といってお越しになられたときは,びっくりした。夫の入れ歯が奥さまの口に合う訳もなく,どうしようかと困ってしまった。形見なのに新しく作り替えることもはばかられるし,あまり大幅に削って調整するのも怖かった。軟らかい材料で入れ歯と歯ぐきの隙間を埋めて,なんとか使えるようにしたのだが,どうしたら良かったのであろうか。

私も,戦友みたいな夫婦を目指したいと思っている。ただし,妻がどう思っているかは不明だが。

hito-pic 佐藤 裕二 先生

profile

1982年
広島大学歯学部卒業
1986年
広島大学大学院(歯科補綴学1)修了・歯学博士
1986年
歯学部附属病院助手
1988年~1989年
アメリカ合衆国NIST客員研究員
1990年
広島大学歯学部講師(歯科補綴学第一講座)
1994年
広島大学歯学部助教授
2002年
昭和大学歯学部教授(高齢者歯科学)
2019年
日本老年歯科医学会理事長(2年間)

専門医・指導医:補綴歯科学会,老年歯科医医学会,口腔インプラント学会,顎関節学会  著書:義歯,口腔機能低下症,撤去,節約,高齢者歯科など多数