歯科医師の資格

No.136

自動車の運転免許は、各地区の公安委員会が実施する交通法規と運転技能についての試験を受け、合格すれば免許証が交付され、公道上を自由に走行することができる。

 一方、歯科医師の資格は、戦後の昭和22年(1947年)から実施された厚生労働省が実施するtest「歯科医師国家試験」で、学説と実技(実地)についての試験を受け、合格した者について、厚生労働大臣より歯科医師免許証が交付されてきた。その後、昭和57年(1982年)に実技(実地)試験は廃止され、昭和58年(1983年)以降は実地試験に代わるものとして、新たに臨床実地試験(実際の実技は行わない筆記試験)が課せられ、現在に至っている。

 このような歯科医師国家試験の内容について、平成4年4月7日(火)に開催された 第123回 国会の参議院厚生委員会の質疑で採り上げられたことがあり、質問者の高桑栄松 参議院議員(厚生委員会:理事)の質疑と、政府側の答弁の主な内容について議事録を参照してご紹介したい。

 この厚生委員会の中では、歯科医師も含めた医療関係者のエイズの職場感染も採り上げられ、歯科医師の感染リスクが高いといったことで、それに対する対策も論議されている。その他、テレビ番組の「NHKスペシャル」で採り上げられたの問題等も採り上げられている。この質疑の中で、質問者の高桑栄松 議員から答弁者である政府側の委員に自身が義歯を使用しているか否かをただし、義歯の不具合については、使用している者でなければ判らないと述べている。

 歯科医師国家試験についての質疑では、先に述べたように、昭和57年(1982年)まで実施されてきた実地試験が、患者の確保が困難となり、試験に使用されてきた抜去天然歯の売り買いの噂等も流れるなど、実地試験の実施は否定的な方向にシフトし、昭和58年(1983年)からは、歯科医師国家試験の中で学説試験と合わせて、車の両輪の一つとも位置づけられる実地試験は廃止され、それに代わって新たに60問の臨床実地筆記試験が加えられた。この臨床実地筆記試験について、歯科の専門学会の一つである日本補綴歯科学会は、会員に対して昭和63年10月にアンケート調査を行い、77.6%の会員から従来の実地試験に代わるものとしては不充分であり、改善を要するとの回答を得ている。

 質問が終了した後、国務大臣(山下徳夫 第78代 厚生大臣)が質問者の高桑栄松 議員のご意見に賛意を表すと断って、自身の義歯を使用している経験から、歯科医師の技術は大切だと発言している。さらに、本稿の最初に述べた、自動車の運転免許を例に挙げ、筆記試験でいくら法規を課しても、路上運転の技術が大切だと述べ、歯科医師も同じだと思うので技術を評価するような方向へ向かうべきだと思っているとしている。

 その後しばらく、厚生労働省では歯科医師国家試験制度に対する改善の動きは見られなかったが、平成18年(2006年)の暮れも押し迫った12月22日に「医道審議会歯科医師分科会歯科医師国家試験制度改善検討部会」(第1回)を開催し、改善に向けて検討を開始している。この改善検討部会でより良い技術の評価方法が開発され、高度な技術を保有する優秀な歯科医師が誕生することを期待したい。

著者

内山 洋一

北海道大学名誉教授・北海道医療大学客員教授
(うちやま・よういち)

内山洋一 (うちやま・よういち)

1934年生まれ。1958年東京医科歯科大学歯学部卒業。7月同大学歯学部歯科補綴学教室助手。1964年同講座講師。1967年東北大学歯学部歯科補綴学第一講座助教授。1971年北海道大学歯学部歯科補綴学第二講座教授。1997年同大学名誉教授。同年北海道医療大学客員教授のほか多くの大学・講座で教鞭を取り現在に至る。また日本補綴歯科学会をはじめ日本医用歯科機器学会、日本接着歯学会、日本歯科審美学会、日本顎顔面補綴学会、日本顎関節学会などで会長、理事、評議員などを務める。近年の研究テーマは「歯科医療の質的向上と省力化・システム化、(CAD/CAMシステムの臨床応用)」。趣味は、ライカ等のカメラいじりである。