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SESSION 16

義歯治療温故知新「古きを学んで新しきを知る」

モデレーター・講師:阿部 二郎 先生
YANG, Tsung-Chieh 先生・GAO, Yang 先生
松丸 悠一 先生・奥野 幾久 先生

 阿部二郎先生は、Gysiの石膏印象やBoucherのコンパウンド印象など、これまでの可撤性の欠損補綴に関わる歴史を紐解き、これらの方法で義歯を製作すると、とくに下顎総義歯の吸着が十分に得られないことを指摘。こうした問題を解決するために、阿部先生は吸着技術のメカニズムとその手法を確立し、維持の問題を解決して快適に義歯を利用できるようになったと述べた。吸着義歯製作のための印象採得方法のポイントとして5つの運動を紹介された。この製作方法をヨーロッパで最初に発表した際、賛否両論あったもののだんだんと広がり、現在では英語による書籍を3冊発刊するに至ったことを振り返った。

 YANG, Tsung-Chieh先生は、補綴物は歯を喪失してしまった方の機能回復のために有用なものであり、とくにRDP(Partial Removal Dental Prosthesis)においては患者さんにきちんとしたサポートがある安定したものを使用してもらうことが治療のゴールとなるものの、実際にそうしたものを提供するのは非常に難しい課題であると指摘。義歯製作にはいろいろなパターンがあり、ケネディの分類を用いて症例を評価することが勧められ、これを用いることで欠損歯のある顎堤の評価がより簡単になると示唆した。そして、フォローアップの際には、臨床アウトカムを詳細に観察することが重要であり、治療方法を再評価する際に役立つと述べた。

 GAO, Yang先生は、印象採得にあたっては、変数の相互関係を念頭において行うことが重要であり、変数を変える際は全体のバランスを考慮することが大切であると強調された。また、個別トレーのアウトラインは非常に重要であり、これは勘に頼るのではなく、概形印象をベースに考えていくことが大切であるとともに、概形印象の主要な役割を認識する必要があると述べた。しかしながら、個別トレーの修正は非常に難しい作業であり、習熟するまでに相当な時間を要し、解剖学的な知識も必要になると指摘。ジーシーのトレーを用いて概形印象を行うことで、臨床家にとって満足できるものを容易に採得できると示唆された。

 松丸悠一先生は、ダイナミック印象において重要なのは、機能運動を妨げない義歯概形のもとで実施すること、また適切にティッシュコンディショナーを使い分けること、そして安定した咬合関係のもとで実施することをつねに意識することであると指摘された。これらはコンベンショナルな手法におけるベーシックと重なると述べ、トレーの試適を十分に行い、適切な印象材を選択すること、トレーの適切な位置づけも大切であると強調された。そして、ダイナミック印象を利用する義歯は個別トレーの役割を果たしていることに注意して基本的なポイントを押さえていくことが必要であると述べた。このような手法は特別に容易なアプローチではないないものの、有効に活用できれば義歯の維持・安定性を直接評価することができ、また時間軸という観点から患者の評価を確認できる臨床的な方法であると示した。

 奥野幾久先生は、現在インプラント治療は多くの問題や制約が示唆され、安全で確実な術式の確立や、患者の高齢化を見据えた上部構造の設計やメインテナンスプログラムの確立が求められているといった背景のもと、インプラントオーバーデンチャー(IOD)に注目が集まっていると指摘された。IODの成功の鍵として、ベーシックなケースでもアドバンスなケースでも、まずは総義歯の製作が基本であり、補綴装置を念頭においた治療計画を立てること、補綴物を挿入するスペースが十分に確保されているかを確認することが必要であると述べた。また、とくに顎堤の吸収が進んだ患者はショートインプラントを選択することになり、バーアタッチメントを組み合わせることが望ましいと強調された。

 最後に、本セッションのまとめとして、阿部先生は10年後には、総義歯製作のアナログな技術はデジタルなワークフローに置き換わっていると予測されると述べた。その理由として、若い歯科技工士は労働時間の短縮を望んでおり、アナログな職人技よりもデジタルなワークフローを学びたいと考えていることを挙げた。