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SESSION 15

超高齢社会の深イイ話!
〜疾患から予防、口腔機能の維持へ〜

モデレーター・講師:深井穫博 先生
上田貴之 先生・SCHIMMEL,Martin 先生・松尾浩一郎 先生

 深井穫博先生をモデレーターに、世界的に直面している高齢社会の進展における社会的な問題と歯科保健の果たす役割についてのセッションが行われた。
 モデレーターの深井穫博先生は「高齢社会におけるグローバル口腔保健:エビデンス、政策、実践、評価」をテーマに、世界的な高齢化と口腔保健、グローバルトレンドとしてのオーラルヘルス、日本の超高齢化社会におけるエビデンスベースの施策、高齢者における口腔機能の役割に対する認識の4つのトピックについてさまざまな資料を示しながら解説された。世界的な寿命の現状と将来予測(長寿社会、医療の進歩)から、高齢化によって疾患に対して患者が脆弱になってきているとし、WHOやFDIをはじめとする世界の取り組みと日本の動向を対比しながら、日本の果たす役割について提起した。

 上田貴之先生は「口腔機能検査で、私たちは何ができるのか?」をテーマに、口腔機能の評価と管理について解説された。口腔機能とはさまざまな機能の複合機能(咀嚼、嚥下、発音等)であり、従来から口腔機能の低下による咀嚼機能、唾液分泌機能等に対する治療は行われてきたが、近年、口腔機能は全身のフレイルやサルコペニア、QOLとの関連が注目されている。2016年に日本老年歯科医学会が「口腔機能低下症」を提唱してその診断基準も示し、2018年に新病名として認められ、口腔機能低下症の検査・管理が医療保険に導入された。本講演では口腔機能低下症の診断基準となる7つの検査項目と口腔機能管理の具体的な方法について詳細に解説された。

 SCHIMMEL,Martin先生は「A European Perspective on Oral Functional Parameters」と題して、口腔機能パラメータに関するヨーロッパの視点について講演された。ヨーロッパの高齢化の動向と疫学的な変化の問題、歯科医療に対する意識の高さなど、さまざまな研究データを示しながら、日本との比較を交えて解説された。咀嚼能力検査としてチューインガムによるカラーミックス能力検査が紹介された。口腔機能低下症に関する機能検査や管理については、日本との連携により同様の検査が行われており、その有用性の検証もなされている。しかし、食生活の違い、言語の違いにより世界共通の評価とはならない。とくにオーラルディアドコキネシスの閾値に関しては日本語以外を母国語とする国では調整・検討が必要との見解を示された。

 松尾浩一郎先生は「口の健康が健康長寿の源〜咀嚼と嚥下のリハビリテーション〜」と題して、口腔機能の低下と食べる機能の障害のメカニズムとその対応について解説された。舌が重要な役割を担っていること、舌圧と握力の関係は優位に相関していることなど最新の知見を示した。また、舌がん患者の再建術後の機能回復の経過についてVF画像で示しながら、リハビリや舌摂食補助床(PAP)の付与、最終義歯の完成により固形食の咀嚼・嚥下が可能になり、常食になって退院となった経緯を紹介した。最後に、オーラルフレイルの予防プログラムとしての「カムカム健康プログラム」を紹介。フレイル予防には運動だけでなく、食生活、栄養管理、社会的参加が必要として様々な取り組みの実績を披露した。