全28セッション一覧

SESSION 1

Smile for the World ~Beyond the Century~
歯科臨床を変えるかもしれない8つの研究

モデレーター:江草 宏 先生
REYNOLDS, Eric C. 先生・STANFORD, Clark M. 先生・今里 聡 先生
古谷野 潔 先生・佐々木 啓一 先生・HICKEL, Reinhard 先生
VAN MEERBEEK, Bart 先生・FERRARI, Marco 先生

 シンポジウムのテーマと同名が冠された「Smile for the World~Beyond the Century~ 歯科臨床を変えるかもしれない8つの研究」。このセッションは会期初日の一日を通して開催されたメインセッションで、江草 宏先生がモデレーターを務め、国内外の8名の講師が、それぞれ専門とする分野の最新の研究や将来の展望などを熱く語られた。

 REYNOLDS, Eric C.先生は、オーラルホメオスタシスは外部環境に有害な変化(食事、プラーク、ディスバイオシスなど)が存在する中でも、安定した口腔内環境、口腔組織構造、および健康を維持すると語られ、唾液バイオミメティックCPP-ACPに基づく新しいオーラルケア製品は、硬組織の再石灰化における唾液のホメオスタシス活性、プレバイオシスによるプラーク・ディスバイオシスの予防、および口腔の健康を維持するための軟組織のバリア機能を高めると解説された。講演では、リカルデントやGC Tooth Mousse(日本名:MIペースト)を使用した白斑病変やホワイトニング後のケアなど具体的な臨床例とともに、これらの製品の科学的根拠を示す論文や臨床試験のデータを提示。口腔の健康を維持するために患者がホームケアにおいてこれらの製品の最適な使用ができるように、具体的な推奨事項についても解説された。

 STANFORD, Clark M.先生は、8020運動の成功により、日本では多くの高齢者は残存歯が増加しているが、それに伴い、歯が長期にわたり機能するほど、摩耗、咬耗、酸蝕症といったトゥースウェアのリスクが高くなるという側面もあることを概説。トゥースウェアは複数の原因が重なっておきるが、診断には、患者がどの段階にあるのか評価し、検討する必要があると語られた。予防のファーストアプローチとして考えるのか修復的なアプローチを行うのか、何らかの修復的な介入を行った後にメンテナンスのプロトコールとして何が必要なのか、患者のステージを評価することが重要であると述べられた。これらの症状の医学的原因、摩耗の分類、および摩耗した歯列を修復するための段階的な診断と治療概念の適用について、詳細な症例を交え解説がなされた。

 今里 聡先生は、生体吸収性二層構造ポリマーメンブレン(サイトランス エラシールド)が、近年、GBR適応材料として実用化されたことにふれ、講演では、この新規メンブレンの特性と臨床的有用性について解説された。例えば、外側の層で結合組織が入ってくるのをブロックし、内側の層が細胞を活性化する二層構造の原理などを詳細な研究データなどが明示された。また、現在取り組んでいる抗菌性骨補填材の開発や骨系分化誘導可能な細胞集合体に関する研究も紹介された。骨髄由来太陽系の幹細胞を使い、細胞集合体を培養、骨分化を誘導する条件で使うなど、細胞由来の材料を使って骨再生を促す試みなどがその一例。これらの革新的技術によってもたらされる将来の骨再生医療について展望が語られた。

 古谷野 潔先生は、修復用材料を始めとする新規材料開発が、これまでの歯科医療の進歩・発展を支えてきたとことを説明し、新規バイオマテリアルがこれからの歯科医療、特に再生医療の分野の進歩に大きく貢献するものと紹介。講演では、世界初の炭酸アパタイトを主成分とする骨補填材(サイトランス グラニュール)について、治験症例の長期的な臨床成績およびその基礎的なメカニズムについて解説された。さらには、骨補填材を基盤とした新たな再生医療研究の一つの例として、高コレステロール血症治療薬スタチンとの併用した場合などの研究結果が発表された。

 佐々木 啓一先生は、近年の AI技術の進化は目覚ましく、様々な分野での応用が進んでいることを概説。デジタルX線やCBCT、口腔内スキャナ、さらにはCAD/CAMを日常的に用いている歯科領域は AI を導入しやすい領域だと述べられた。疾病や病態の診断や治療法の選択等へのAI 導入に関し、数多くの試みがなされているが、臨床応用されているものはほとんどないと語られた。そのような中で、東北大学で研究されている顎関節症や、歯周病などの疾患を検出できる「口腔内疾患検出AIプロジェクト」の一例として、スマホで撮影された写真を送るだけで、歯周病のリスクを識別できるというアプリを紹介され、歯科におけるAI活用の現状での課題と挑戦、今後を展望された。

 HICKEL, Reinhard先生は、近年、アマルガムの代替材料が開発され、セルフ・光硬化型バルクフィル・コンポジットレジン、グラスアイオノマーセメント、ガラスハイブリッドなどが導入されてきたことを述べられ、これらのバルクフィル材料のマトリックス、硬化開始剤、粒子サイズ、フィラー量による機械的特性(収縮応力、曲げ強度、硬度など)を解説された。また、これからは、患者さん中心の治療であるべきであり、充填、分析、予測、管理へとシフトする必要があると語られた。それ故に、材料を検討するときには、慎重に選択し、臨床データが入手可能な材料を使用するべきであると発表された。

 VAN MEERBEEK, Bart先生は、急速に進化する歯科用接着技術の歴史的経過を10のマイルストーンに位置づけ、接着技術の進展を発表された。講演では、歯科の接着技術は、1950年代の初期以来、絶えず進化を続け、エナメル質の接着は早期に成功に導かれたが、象牙質の接着の確立は歴史的に常に困難だったことを述べられた。しかし現在では、ワンステップ/コンポーネントから発展し、マルチステップ・エッチ・アンド・リンス(E&R)とセルフエッチ(SE)がゴールドスタンダードになり、その信頼性、予測性、耐久性は明らかになってきたと語られた。講演最後では、最新世代のボンディング材として、G-2ボンド ユニバーサルをとりあげ、2ステップボンディング材の試験結果などを発表された。

 FERRARI, Marco先生は、冒頭、歯科医院のデジタル化からもう逃れることができないと話され、口腔内スキャナやCAD/CAMなどのデジタル技術はもはや未来の技術ではなく、今すぐ必要な技術になっていると解説。デジタルデンティストリーの現状、最近の動向、そして、デンタルテクノロジーについて、また、デジタルデンティストリーの発達により、これまでとは異なるスキルの習得が必要になってきたと語られた。さらに、世界中の歯学部の教育プログラムにデジタルデンティストリーが追加され、近い将来、多くの歯科医師が歯学部で口腔内スキャナや CAD/CAM のトレーニングを受け、臨床に出る時代がやってきており、シエナ大学を例にデジタルデンティストリー教育の現状と課題について紹介された。