株式会社ジーシー創業95周年記念・GC友の会60周年記念 MI WORLD SYMPOSIUM in Tokyo

ジーシーでは2000年にFDIが提唱したMI(Minimal Intervention)の概念を受けて、2001年よりMIプログラムとして臨床家の皆様にさまざまな情報発信を行なってまいりました。そして、このたび株式会社ジーシー創業95周年とGC友の会60周年を記念して、2017年2月5日にJPタワーホール&カンファレンス(KITTE)にて「MI WORLDシンポジウム in Tokyo」を、おかげさまで会場満席の中で開催いたしました。本シンポジウムはGCヨーロッパが主催するMIアドバイザリーボードのメンバーを中心に、7カ国8名の先生方からMIアプローチの重要性と臨床ケースをご講演いただきました。

基調講演

今こそ、変化の時だ!
〜MI:21世紀における成功する臨床の新しい道しるべ〜

Elmar Reich 先生
Private practice and University of Cologne, Germany

本シンポジウムのコーディネーターであるElmar Reich先生は、FDIでは2000年のMI策定メンバーで、GCヨーロッパのMIアドバイザリーボードのチェアマンでもある。開催に先立ち行なわれた基調講演では、MIアドバイザリーボードの活動の中でまとめられたMITP(MI Treatment Plan)について、さまざまな年齢層の患者さんの臨床を交えて紹介された。
最初に、ボードメンバーにより10年にわたり研究されてきたカリエスの検出とモニタリングに対して紹介され、患者さんをマネージメントするうえで重要なリスク評価を提示された。カリエスリスクとして、ロー、ミディアム、ハイリスクと判別し、それぞれのリスクに応じたMIアプローチを解説。リスク評価の中には、カリエスの活動性の評価はもちろん、年齢による生活の変化、ホームケア能力など、さまざまな個人的な背景やニーズに合わせた判断が重要だと語られ、個々のリスクに応じたリコール&メインテナンスの頻度なども解説された。また、世界的な高齢化の中で高齢者の特徴に合わせた対応があり、MIアプローチは必要であると訴えられた。
MIは患者さんに対するソリューションだが、単に修復するだけでは片手落ちで、カリエスや歯周疾患の進行を止めてコントロールし、生涯にわたり健康な歯を維持することで、全身の健康と患者さんのヘルシーライフがもたらされると話された。そして、このアプローチを患者さんに提供することで、クリニックの繁栄も期待できると強調された。

Part1 ヨーロッパにおけるMIプログラムの変遷 〜現在のエビデンスに基づいた患者中心のMIとは〜

成功の鍵を発見しよう
「ホリスティックアプローチ」によるカリエスの発見と羅患性

Esther Ruiz de Castaneda 先生
Private practice, Barcelona, Spain

スペインのEsther Ruiz de Castaneda先生は、ホリスティックアプローチで患者さんを診ることの重要性を解説された。とくに、診断では、治療成功の因子を見つけるために患者さんの考え方、日常生活、病歴、口腔内細菌の状況、プラークや出血の有無など、いま患者さんに何が起きているのか、あらゆる局面からアプローチし、患者さんを十分に理解していくこと。また、患者さんにもチームの一員として自らのリスクを理解してもらい、ともに生涯にわたって健康に取り組んでいただくことが早期発見・予防につながり、MIプログラムを成功に導く鍵だと講演された。

MIによる予防:
「自分の歯で一生を過ごす」に近づくために

Matteo Basso 先生
University of Milan, IRCCS Galeazzi Orthoapedic Institute, Dental Clinic, Italy

イタリアのMatteo Basso先生は、MIの観点から病変を診て、長期的な歯の保存のために何を成すべきかをお話された。そのなかで、カリエスがう窩形成性なのか非形成性なの見極め、早い段階で不可逆的な病変に進行するのを食い止めることが重要だと強調。修復治療においても理想的な口腔内環境に近づける努力が大切で、感染源の除去をはじめとする原因治療が重要になると解説された。また、脱灰があったとしても再石灰化させることができる材料やシーラントなどの応用方法についても紹介された。
最後に患者さんのリスクに応じてメインテナンスの周期を決定し、時系列的に病変をフォローアップしていくことこそ重要だと講演された。

生物学的観点からのMI修復・補綴処置

Ivana Miletic 先生
Professor, Department of Endodontics and Restorative Dentistry,
School of Dental Medicine, University of Zagreb, Croatia

クロアチアのIvana Miletic先生は、MIの考え方で修復を行うケースを紹介された。まず、カリエスがどれくらい深い病変なのか、患部に歯質がどれだけ残っているのかを考慮して治療にあたること。感染歯質だけを除去し、非感染歯質はできるだけ残すことで歯髄を守るべきだと解説された。つまり、歯髄はカルシウムイオンやリン酸イオンなど刺激となる物質に対して反応し機能を促進させるので、グラスアイオノマーセメントを用いて再石灰化を促すべきだと症例を紹介された。そして、最も重要なのは歯髄を維持すること、MIを実行することで歯牙を生涯にわたって守っていけると講演された。

Part2

最高の盟友となる“Dentonauts”

Patricia Gaton 先生
University of Barcelona, Spain

スペインのPatricia Gaton先生は、小児歯科医の立場からMIによる小児のアプローチが非常に効果的だと講演された。DentonautsとはGCヨーロッパが展開している小児の予防歯科に関するキャンペーンで、コミュニケーションの方策の一つとしてこれを活用し、小児には早期のケアから接することで歯科への恐怖が無くなると解説された。0歳から6歳は、親と本人と術者がチームとなることで予防がスムーズになり、ハイリスクであったとしてもクロルへキシジンジェルなどを使っても抵抗なく受け入れてくれると紹介。また、ティーンエイジャーになると矯正治療などでハイリスクになるが、患者さん自身に「なぜ白班病変ができるのか」などの情報をきちんと伝えることで、子供のうちから予防していく姿勢が身につくと解説された。

介入はできるだけ少なく:
今日の補綴専門医オフィスにおける予防とMIの位置づけ

Pamela Maragliano-Muniz 先生
Dental Arts, USA

アメリカのPamela Maragliano-Muniz先生は、かつては歯科衛生士であり現在は補綴専門医という立場から、MIコンセプトをさまざまな患者さんの年齢群でどのように実践していくのか、歯科医師と歯科衛生士との関わりから解説された。まず、患者さんのリスク因子の検出は歯科衛生士のアポイントで行ない、それを受けて歯科医師はMIアプローチでの長期的な解決策を考えると紹介された。そのなかで、MIでの治療や補綴修復も披露され、グラスアイオノマーセメントやセラミックスなど、症例に応じた各種材料の選択方法も解説された。最後に、予防歯科に真摯に取り組むことでハイリスクの患者でも口腔環境を良好にできるだけではなく、患者さんとの信頼関係も深まり、結果的にクリニックの活性化にもつながると講演された。

MI理論に基づく日本のカリエス治療の
先駆的なガイドライン

林 美加子 先生
大阪大学大学院 歯学研究科 口腔分子感染制御学講座 教授

大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座教授の林 美加子先生は、MI理論のエビデンスに基づいて日本歯科保存学会が発表した「う蝕治療ガイドライン」に基づいて講演された。そのなかで、露髄の可能性がある深いう蝕では、ステップワイズのエキスカベーションが露髄を防ぐのに有効だと紹介。また、高齢者の根面う蝕の治療オプションで、古くからあるが、近年世界でも注目され始めたSDF・フッ化ジアミン銀を使うことで90%の活動性う蝕を非活動性に変えられたとも紹介され、その他カリエス治療に有効な材料も提示された。最後に、4歳から19歳まで患者の経過症例を紹介され、MIアプローチを実践することで非常に良い結果が得られると強調された。

歯の保存と修復・補綴のための
MIマネージメント戦略

Ian Meyers 先生
General Dental Practitioner, and Honorary Professor,
The University of Queensland School of Dentistry, Australia

オーストラリアのIan Meyers先生からは、高齢者の歯質の保存と修復、補綴についてMIマネージメントでの臨床ケースを多数披露していただいた。とくに高齢者は歯面の保護が重要だと解説され、フジⅦなどを活用するケースが多いと語られた。修復では隣接面の深いう蝕について、グラスアイオノマーセメントを用いたオープンサンドイッチ法を紹介された。また、隣接面の病変が複数ある場合には、隣在歯でう窩が形成されていなければフッ化物の塗布を行い、隣接する深いう窩はオープンサンドイッチ法を行うことで隣接面も硬化が期待できると解説された。高齢者のニーズはさまざまだが、高齢社会では口腔内で機能する歯をできるだけ長い間維持させるということが、健康長寿では極めて大事なことだとまとめられた。