インプラントカレッジ
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岩田 健男先生 「インプラント補綴で失敗しないための基礎知識と臨床指針」
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岩田 健男先生
医療法人健歯会東小金井歯科理事長 デンタルヘルス・アソシエート代表 |
「インプラント補綴で失敗しないための基礎知識と臨床指針」
Part.1 インプラント補綴の課題
欠損補綴法の一選択肢としてその地位を確立しつつあるインプラント補綴法であるが、
1990年代以降、この補綴法がかかえている問題点が多数指摘されるようになった。
それらの研究報告をまとめると、インプラント補綴の失敗原因はおおむね感染(Infection)と
負担過重による外傷(Trauma)であることが判明してきた。
Rosenbergら(1991)<文献1>は、インプラント補綴の失敗症例に注目し、
細菌学的な観点から感染性(Infective:Peri-implantits)と外傷性
(Traumatic:Occlusal overload)ではインプラント周囲組織の病変が病理組織学的・細菌学的に
異なることを明らかにした。また、Isidorら(1996)<文献2>はインプラントに
咬合圧を負担過重することによってインプラントの喪失を生じる現象を実験し、
プラークの堆積によって生じる感染性の骨吸収よりも、
咬合力の負担過重による外傷によって生じる骨吸収のほうが数倍多いことを証明している。
すなわち、インプラント補綴の失敗には感染性由来と外傷性由来があり、
この二つの病変は明らかに失敗原因であることが立証された(図1)。
図 1
インプラント補綴の失敗の原因は感染性と外傷性である。この2つの原因は異なる病因である。
そして、骨吸収の程度からみると、外傷性病因のほうが悪影響を及ぼしやすい。Isidor F. 1996より改変。
1 ). ペリインプランタイティス(Peri-implantitis)(図2)
感染が原因でインプラント周囲組織に生じた炎症を総称して
ペリインプランタイティス(インプラント周囲炎)と呼んでいる。
インプラント補綴の失敗に関係する感染とその感染源となる
細菌についての見解(Quirynen;1990, Quirynenら;1993, Kayakakisら;1994,
Mombelliら;1995,Listgartenら;1999 )<文献3~文献7>をまとめると次のようになる。
(1)インプラント治療に先立って歯周治療を完了し、感染源になる細菌を無くしておく。
(2)インプラント治療中も感染源になる細菌の繁殖を阻止する。
(3)インプラント治療後は、定期的にメンテナンスを遂行し、感染源の除去を行う。
ことが重要になる。<文献8縲恤カ献12>
1.歯に付着するプラーク中の細菌はペリインプランタイティスの病因にもなる。
2.ペリインプランタイティスの病原菌は歯周病の病原菌と一致する。
3.歯の周囲に寄生する細菌はインプラント周囲にも繁殖する。
4.無歯顎症例と部分欠損症例ではインプラント周囲の細菌叢が異なる。
したがって、臨床指針としては、これらの感染にまつわる見解を考慮に入れたうえで、
インプラント補綴においても天然歯の補綴の場合と同様、2.ペリインプランタイティスの病原菌は歯周病の病原菌と一致する。
3.歯の周囲に寄生する細菌はインプラント周囲にも繁殖する。
4.無歯顎症例と部分欠損症例ではインプラント周囲の細菌叢が異なる。
(1)インプラント治療に先立って歯周治療を完了し、感染源になる細菌を無くしておく。
(2)インプラント治療中も感染源になる細菌の繁殖を阻止する。
(3)インプラント治療後は、定期的にメンテナンスを遂行し、感染源の除去を行う。
ことが重要になる。<文献8縲恤カ献12>
図 2
感染性病因はペリインプランタイティスperi-implantitisとよばれ、
インプラントの頸部では骨縁上の滲出性炎症がみられ、
付着喪失、辺縁骨の吸収、ポケット形成が症状として現れる。
また、インプラントは動揺していないことが多い。
A. 術後15年を経過した下顎臼歯部のインプラント補綴とペリインプランタイティス
B. 同、レントゲン写真
B. 同、レントゲン写真
2 ).負担過重による外傷(Trauma)(図3)
インプラント補綴の失敗の多くが負担過重(Overload)が
原因で生じていることはすでに述べた。Espositoら<文献15>は、
インプラントの失敗原因を5年間の経過観察を通じて
総括し、感染性は10%で、その多くは一年以内の早期に発現すること、
また負担過重による外傷性の失敗は90%を占め、その発生は45%が補綴物装着後1年以内、
55%が1年以降であることを立証した。
インプラント補綴の負担過重による失敗を阻止するために、
バイオメカニクスと咬合力のコントロールは大切である。<文献13、14、16>臨床指針としては、
(1)インプラント体の長さ、歯冠歯根比率、および咬合面間距離に注意し、応力の分散を図るバイオメカニクス的な配慮が重要。
(2)臼歯部インプラント補綴では、パラファンクションや非作業側咬頭干渉によって生じる大きな側方圧を回避すべく、 咬合力をコントロールすることが不可欠。
(3)適切なアンテリア・ガイダンスを付与して、臼歯部のディスクルージョンを達成することが大切。
(4)インプラント補綴では、上部構造のパッシブフィット (Passive fit)が重要で、不適合のためにパッシブフィットが損なわれると、咬合圧はインプラント体に悪影響を及ぼす。
(1)インプラント体の長さ、歯冠歯根比率、および咬合面間距離に注意し、応力の分散を図るバイオメカニクス的な配慮が重要。
(2)臼歯部インプラント補綴では、パラファンクションや非作業側咬頭干渉によって生じる大きな側方圧を回避すべく、 咬合力をコントロールすることが不可欠。
(3)適切なアンテリア・ガイダンスを付与して、臼歯部のディスクルージョンを達成することが大切。
(4)インプラント補綴では、上部構造のパッシブフィット (Passive fit)が重要で、不適合のためにパッシブフィットが損なわれると、咬合圧はインプラント体に悪影響を及ぼす。
図 3
外傷性病因は負担過重occlusal overloadのことで、インプラントの頸部では滲出性炎症はすくないが、
上皮と肉芽の迷入と感染性の場合よりも大きい辺縁骨の垂直性吸収が症状として認められる。
また、インプラントは動揺していることが多い。
A. 術後10年を経過した下顎臼歯部のインプラント補綴と負担過重
B. 同、レントゲン写真
B. 同、レントゲン写真
<参考文献>
1. Rosenberg E et al. : Microbial differences in two clinically distinct types of failures of osseointegrated implants.
Clin Oral Impl Reat 1991;2:135
2. Isidor F. : Loss of osseointegration caused by occlusal load of oral implants. A clinical and radiographic study in monkeys. Clin Oral Imp Res 1996;7:143
3. Quirynen M et al. : Distribution of bacterial morphotypes around natural teeth and titanium implants of modum Branemark. Clin Oral Impl Rest 1990;1:8
4. Quirynen M et al. : An in vivo study and the influence of the surface roughness of implants of the microbiology of supra and sub-gingival plaque. J Dent Res 1993;72:1304
5. Kalyakakis G et al. : Clinical and microbiological status of osseointegrated implants. J Perio 1994;65:766
6. Mombelli A et al. : The microbiota associated with successful or failing osseointegrated titanium implants. Oral Microbiology and Immunology 1995;2:145
7. Listgarten M et al : Comparative biological characteristics of failing implants and periodontally diseased teeth. J Perio 1999;70:431
8. van Winkelhoff A et al : Early colonization of dental implants by putative periodontal pathogens in partially edentulous patients. Clin Oral Impl Res 2000;11:511
9. Ximenez-Fyvie L et al : Microbial composition of supra-and subgingival plaque in subjects with adult periodontitis. J Clin Periodontol 2000;27:722
10. Akae P et al : Microbiota associated with experimental peri-implantitis and periodontitis in adult Maca Mulatta monkeys. J Periodontol 1998;69:190
11. Renvert S et al : Infection at titanium implants with or without a clinical diagnosis of inflammation. Clin Oral Impl Res 2007;18:509
12. Quirynen M and Teugers W. : Microbiologically compromised patients and impact on oral implants. Periodontology 2000, 2003;33:119
13. Piattelli A etal. : Histologic observations of 230 retrieved dental implants; Eight-years experience(1989-1996). J Periodontol 1998;69:178
14. Quirynen M etal.: Peri-implant health around screw-shaped commercially pure titanium machined implants in partially edentulous patients with or without on going periodontitis. Clin Oral Impl Rest 2001;12:589
15. Esposito M et al.: Possible aetiologic factors in failure over a 5-year period. J Oral Sci 1998;106:527
16. Mengel R et al : Osseointegrated implants in patients treated for generalized severe periodontitis. An interim report. J Periodont 1996;67:1782
2. Isidor F. : Loss of osseointegration caused by occlusal load of oral implants. A clinical and radiographic study in monkeys. Clin Oral Imp Res 1996;7:143
3. Quirynen M et al. : Distribution of bacterial morphotypes around natural teeth and titanium implants of modum Branemark. Clin Oral Impl Rest 1990;1:8
4. Quirynen M et al. : An in vivo study and the influence of the surface roughness of implants of the microbiology of supra and sub-gingival plaque. J Dent Res 1993;72:1304
5. Kalyakakis G et al. : Clinical and microbiological status of osseointegrated implants. J Perio 1994;65:766
6. Mombelli A et al. : The microbiota associated with successful or failing osseointegrated titanium implants. Oral Microbiology and Immunology 1995;2:145
7. Listgarten M et al : Comparative biological characteristics of failing implants and periodontally diseased teeth. J Perio 1999;70:431
8. van Winkelhoff A et al : Early colonization of dental implants by putative periodontal pathogens in partially edentulous patients. Clin Oral Impl Res 2000;11:511
9. Ximenez-Fyvie L et al : Microbial composition of supra-and subgingival plaque in subjects with adult periodontitis. J Clin Periodontol 2000;27:722
10. Akae P et al : Microbiota associated with experimental peri-implantitis and periodontitis in adult Maca Mulatta monkeys. J Periodontol 1998;69:190
11. Renvert S et al : Infection at titanium implants with or without a clinical diagnosis of inflammation. Clin Oral Impl Res 2007;18:509
12. Quirynen M and Teugers W. : Microbiologically compromised patients and impact on oral implants. Periodontology 2000, 2003;33:119
13. Piattelli A etal. : Histologic observations of 230 retrieved dental implants; Eight-years experience(1989-1996). J Periodontol 1998;69:178
14. Quirynen M etal.: Peri-implant health around screw-shaped commercially pure titanium machined implants in partially edentulous patients with or without on going periodontitis. Clin Oral Impl Rest 2001;12:589
15. Esposito M et al.: Possible aetiologic factors in failure over a 5-year period. J Oral Sci 1998;106:527
16. Mengel R et al : Osseointegrated implants in patients treated for generalized severe periodontitis. An interim report. J Periodont 1996;67:1782
「インプラント補綴で失敗しないための基礎知識と臨床指針」
Part.2 ペリインプランタイティスの予防と臨床指針
歯周病の既往歴のある患者であっても、インプラント補綴を活用した場合の成功率は極めて高く、
インプラントの5年生存率は96%以上である。<文献1縲怩R>
しかし、いずれの研究報告からも立証されているように、
残存天然歯の歯周病に関係する細菌はインプラントにも付着して繁殖する。
また、部分欠損症例のペリインプランタイティスの原因菌は歯周病の原因菌とほぼ同定されている。
すなわち、インプラント埋入手術前に歯周病が完全に改善されて細菌が駆除されていないと、
インプラントは感染のために失敗する危険性がある。
また、上部構造の製作過程中においても、細菌繁殖が放置されていると
インプラントは軟組織部から感染する可能性がある。さらに、インプラント治療が完了してからも、
適切なプラークコントロールが欠如していたり、定期的リコール・メンテナンスをおろそかにしていると、
インプラント周囲組織とインプラントは容易に細菌感染して
炎症症状を呈するリスクのあることを忘れてはならない。したがって、インプラント治療に際して特に次のことを配慮すべきである:
インプラント補綴が感染によって失敗しないよう、以下の臨床指針を奨励したい。
2.ポケットを完全に除去し、細菌叢の活動を阻止しておく
3.術後の歯周病の再発を予防すべく、厳格なメンテナンスを遂行する
2.抜歯
3.インプラント体の埋入
4.ボーンアンカー・ブリッジの製作
5.固定式上部構造の装着
6.術後メンテナンス
1.インプラント植立前に歯周病を治療しておく
2.インプラント植立後の歯周病の再発を予防する
3.インプラント補綴の完了後も、歯周病の管理を怠らない
すなわち、インプラント補綴の感染による失敗を阻止するために、
術前の歯周病治療と術後のメンテナンス(SPT)は不可欠である<文献4,5>。2.インプラント植立後の歯周病の再発を予防する
3.インプラント補綴の完了後も、歯周病の管理を怠らない
インプラント補綴が感染によって失敗しないよう、以下の臨床指針を奨励したい。
保存可能な歯を残したまま、
欠損部をインプラント補綴して修復する場合:(図1)
1.術前に歯周病を治療する2.ポケットを完全に除去し、細菌叢の活動を阻止しておく
3.術後の歯周病の再発を予防すべく、厳格なメンテナンスを遂行する
保存不可能(hopeless)な残存歯を全て抜歯して、インプラント補綴を行う場合には、
以下の順序で治療を進める(図2)。
1.感染の除去2.抜歯
3.インプラント体の埋入
4.ボーンアンカー・ブリッジの製作
5.固定式上部構造の装着
6.術後メンテナンス
図 1
保存可能な歯を残し、欠損部をインプラント補綴する症例
A. 術前の咬合面観。上顎と下顎。同、オルソパントモ写真
B. 保存できない歯を抜歯。残存歯の歯周病を治療。
C. 術後のオルソパントモ写真と前方面観。
B. 保存できない歯を抜歯。残存歯の歯周病を治療。
C. 術後のオルソパントモ写真と前方面観。
図 2
残存歯を全て抜歯する症例。
A. 術前の下顎歯列とオルソパントモ写真。
B. 歯周治療。
C. 抜歯
D. 下顎ボーンアンカー・ブリッジと術後のオルソパントモ写真。
B. 歯周治療。
C. 抜歯
D. 下顎ボーンアンカー・ブリッジと術後のオルソパントモ写真。
<参考文献>
1. Karoussis I K et al. : Long term implant prognosis in patients
with and without a history of chronic periodontitis: a 10-year prospective
cohort study of the ITI dental implant system. Clin Oral Impl Res 2003;14:329
2. Van der Weijen G etal. Implant therapy in partially edentulous, periodontally compromised patients; a review. J Clin Periodontol 2005;32:506
3. Wennstrom J etal. Oral rehabilitation in implant supported fixed partial dentures in periodontitis susceptible subjects. A 5-year prospective syudy. J Clin Periodontol 2004;31:713
4. Liebart M etal : Smileline and periodontium visibility. Perio 2004 2004;1:17
5. Dent C etal. : The influence of preoperative antibiotics on success of endosseous implants up to and including Stage 2 surgery : a study of 26411 implants. Oral Maxillofac Surg 1997;55:19
6. Gynther G etal. : Dental implant installation without antibiotic prophylaxis Oral Surg,Oral Med,Oral pathol,Oral Radiol 1998;85:509
2. Van der Weijen G etal. Implant therapy in partially edentulous, periodontally compromised patients; a review. J Clin Periodontol 2005;32:506
3. Wennstrom J etal. Oral rehabilitation in implant supported fixed partial dentures in periodontitis susceptible subjects. A 5-year prospective syudy. J Clin Periodontol 2004;31:713
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6. Gynther G etal. : Dental implant installation without antibiotic prophylaxis Oral Surg,Oral Med,Oral pathol,Oral Radiol 1998;85:509
「インプラント補綴で失敗しないための基礎知識と臨床指針」
Part.3 負担過重の回避と臨床指針
「インプラント補綴の失敗原因の9割が負担過重(Overload)」であることが立証されている。
インプラントに加わる負荷とは咬合力(Occlusal force)である。パラファンクション(異常機能,ブラキシズム)時に加わる強大な咬合力,
特に臼歯部の非作業側咬頭干渉が側方圧として長時間にわたって作用すると,
インプラントに負担過重による外傷力が加わる。一方、比較的小さな咬合力しか作用しなかったとしても、
弱い骨質、短いインプラント、少ない本数、不良なインプラントの配置
(たとえば上部構造のカンチレバー)の条件下では、
インプラントと骨面に負担過重による外傷力が働くことになる。
インプラント補綴の負担過重による失敗を未然に防ぐために、咬合力のコントロールと安全なバイオメカニクス(生体力学)的配慮は大切になる。
(1)臼歯部インプラント補綴では、パラファンクションや 非作業側咬頭干渉によって生じる大きな側方圧を回避すべく、咬合力をコントロールすることが不可欠である。(図1)
(2)適切なアンテリアガイダンスを付与して、臼歯部のディスクルージョンを 達成することも大切である。(図2)<文献2,3>
(3)アンテリア・ガイダンスが機能しないアングルⅡ級1類不正咬合と前歯オープンバイトの症例では 下顎位自体が不安定なことが多い。下顎位の水平的ブレが多い症例は一般的に難症例になる。 <文献4>。特に、臼歯部のインプラント補綴だけに注目し、前歯部の不正咬合(アンテリア・ガイダンスの欠如)を見過ごすと、 インプラント治療の失敗の原因になる。
(1)インプラントの長さ
Baelum(2004)<文献3>は重度歯周病症例におけるインプラントの生存率について調べた結果、 10mmより短いインプラントを用いると、10mm以上の長さのインプラントを用いた場合よりも 6.5倍喪失率が高くなることを報告している。そして、 咬合力負担後のインプラント喪失はその長さと関連し、 長いインプラントはより広い面積の骨面で咬合力を応力分散できることを証明した。
(2)対合歯との咬合面間距離(図3、4)
臼歯部に側方咬合圧が作用する場合、 インプラント・ヘッドと対合歯咬合面との距離が大きくなればなるほど、 より大きな回転モーメントが負荷され、結局のところインプラント失敗の確立は高くなってしまう。 上部構造の高さ(咬合面間距離)と埋入するインプラントの長さ、すなわち、歯冠歯根比率は天然歯の例からみても、 1:1より良好なことが望ましい。
(3)パッシブフィット
インプラントと上部構造との適合がよくないと、咬合力はインプラントと骨面で適正に応力分散されない。 その結果、部分的に応力集中してその部位のインプラント喪失につながる危険性がある。 したがって、インプラントと上部構造の適合はパッシブフィット(passive fit)であるべきである。上部構造がネジ脱着式の場合には、 全ての連結用ネジを最後まで抵抗なく締め付けることが出来る ことがパッシブフィットの目安になる。上部構造がセメント合着式の場合、インプラントと接続する アバットメントが精密に適合していること、および上部構造がアバットメントに 抵抗感なく完全にシートすることが目安になる。 インプラントと上部構造のパッシブフィットを損なうもうひとつの課題は、ポーセレン焼成による メタルフレームの変形である。<文献5>インプラント同士の間隔(距離)が35mm以上 になるとメタルフレーム自体の適合が不適合になりやすいことはよく知られている。 さらに、ポーセレンを焼成することでメタルフレームは変形するため、 不適合の度合いは悪化することになる。著者は、インプラント間の距離が35mm以上になる症例では メタルフレームを分割して製作し、ポーセレンを焼成した後に、後ロウ着法で連結するようにしている。<文献6>
1 ).インプラント補綴と咬合力のコントロール
Quirynenら(1992)<文献1>は咬合力の荷重1年後におけるインプラント補綴の失敗症例を検討し、
パラファンクション(ブラクサー)症例および前歯ガイドが欠如した症例では臼歯部
インプラント体の失敗またはインプラント周囲骨の喪失が生じやすいことを報告している。
臼歯部インプラントがもっとも大きな外傷力を受けやすいのは非作業側咬頭干渉による
強大な側方圧が負荷される状況である。これは、夜間睡眠時のパラファンクション(Nocturnal bruxism)によって惹起されることが多い。
特に、前歯のアンテリア・ガイダンスが欠如または不足している症例では下顎は
偏心運動中に下降しないで水平移動するため、臼歯部はディスクルージョン(離開)
しないでガイド(咬頭干渉)をすることになる。臼歯部が咬頭干渉すると咬筋と内側翼突筋が
活動するため強大な咬合力が側方圧として臼歯部に加わるようになり、臼歯部インプラントへの負担過重は免れない。
したがって、臨床指針としては、(1)臼歯部インプラント補綴では、パラファンクションや 非作業側咬頭干渉によって生じる大きな側方圧を回避すべく、咬合力をコントロールすることが不可欠である。(図1)
(2)適切なアンテリアガイダンスを付与して、臼歯部のディスクルージョンを 達成することも大切である。(図2)<文献2,3>
(3)アンテリア・ガイダンスが機能しないアングルⅡ級1類不正咬合と前歯オープンバイトの症例では 下顎位自体が不安定なことが多い。下顎位の水平的ブレが多い症例は一般的に難症例になる。 <文献4>。特に、臼歯部のインプラント補綴だけに注目し、前歯部の不正咬合(アンテリア・ガイダンスの欠如)を見過ごすと、 インプラント治療の失敗の原因になる。
2 ).インプラント補綴と安全なバイオメカニクス
安全なバイオメカニクスとは、咬合力が加わった際にインプラントを介して骨面へ適切に
応力分散が出来る状況を示唆している。ここでは、インプラントの長さ、
対合歯との咬合面間距離、上部構造のパッシブフィットおよび咬合面材料の種類が大切になる。
いずれも、咬合力がインプラントに対して大きな回転モーメントとして作用しないよう応力分散するために重要な配慮事項である。
バイオメカニクスに関連する臨床指針と根拠を以下に解説する。(1)インプラントの長さ
Baelum(2004)<文献3>は重度歯周病症例におけるインプラントの生存率について調べた結果、 10mmより短いインプラントを用いると、10mm以上の長さのインプラントを用いた場合よりも 6.5倍喪失率が高くなることを報告している。そして、 咬合力負担後のインプラント喪失はその長さと関連し、 長いインプラントはより広い面積の骨面で咬合力を応力分散できることを証明した。
(2)対合歯との咬合面間距離(図3、4)
臼歯部に側方咬合圧が作用する場合、 インプラント・ヘッドと対合歯咬合面との距離が大きくなればなるほど、 より大きな回転モーメントが負荷され、結局のところインプラント失敗の確立は高くなってしまう。 上部構造の高さ(咬合面間距離)と埋入するインプラントの長さ、すなわち、歯冠歯根比率は天然歯の例からみても、 1:1より良好なことが望ましい。
(3)パッシブフィット
インプラントと上部構造との適合がよくないと、咬合力はインプラントと骨面で適正に応力分散されない。 その結果、部分的に応力集中してその部位のインプラント喪失につながる危険性がある。 したがって、インプラントと上部構造の適合はパッシブフィット(passive fit)であるべきである。上部構造がネジ脱着式の場合には、 全ての連結用ネジを最後まで抵抗なく締め付けることが出来る ことがパッシブフィットの目安になる。上部構造がセメント合着式の場合、インプラントと接続する アバットメントが精密に適合していること、および上部構造がアバットメントに 抵抗感なく完全にシートすることが目安になる。 インプラントと上部構造のパッシブフィットを損なうもうひとつの課題は、ポーセレン焼成による メタルフレームの変形である。<文献5>インプラント同士の間隔(距離)が35mm以上 になるとメタルフレーム自体の適合が不適合になりやすいことはよく知られている。 さらに、ポーセレンを焼成することでメタルフレームは変形するため、 不適合の度合いは悪化することになる。著者は、インプラント間の距離が35mm以上になる症例では メタルフレームを分割して製作し、ポーセレンを焼成した後に、後ロウ着法で連結するようにしている。<文献6>
図 1
パラファンクションがあると、臼歯部の非作業側咬頭干渉(側方圧)を生じやすい。
アンテリアガイダンスが欠如すると、臼歯はディスクルージョンできないため臼歯部インプラントは負担過重になりやすい。
図 2
前歯の開咬があると臼歯で咬頭干渉を生じ易い。夜間のパラファンクションによる、
臼歯部への側方圧はシグメンタルスプリントで回避して、インプラントへの負担過重を予防する。
図 3
インプラント・ヘッドと対合歯咬合面の距離。臼歯部に側方咬合力が作用すると、距
離の大きい方により大きなモーメントがかかる。モーメントが大きいほど、失敗の確率は高くなる。
図 4
歯周病等の原因で臼歯部歯槽骨が吸収した症例。骨の高さが減少すると、咬合面間距離が増加し、
A. より大きなモーメントがインプラントに加わることになる。
上顎臼歯部ではサイナスリフト法で骨の高さを獲得できれば
B. 長いインプラントを活用して、咬合力の応力分散が可能になる。
B. 長いインプラントを活用して、咬合力の応力分散が可能になる。
<参考文献>
1. Quirynen M etal. :Effect of occlusal overload on failures. Clin Oral Impl Res 1992;3:104-111
2. 岩田健男 :Advanced Course シリーズ: より確実なインプラント補綴をめざして。 インプラント補綴―日常臨床での成功の鍵 日本歯科評論、66(4):101,2006
3. Baelum V, Ellegard B. : Implant survival in periodontally compromised patients. J Peridontol 2004;75:1404
4. Wise M : Movement between centric relation contact position and intercuspal position. Int J Prosthodont 1992;5:333
5. Bridger D, Nicholls J. : Distortion of ceramo-metal fixed partial dentures during the firing cycle. J Prosthet Dent 1981;45:506
6. Wise M. : Fit of implant supported fixed prostheses fabricated on master casts made from a dental stone and a dental plaster. J Prosthet Dent 2001;5:532
2. 岩田健男 :Advanced Course シリーズ: より確実なインプラント補綴をめざして。 インプラント補綴―日常臨床での成功の鍵 日本歯科評論、66(4):101,2006
3. Baelum V, Ellegard B. : Implant survival in periodontally compromised patients. J Peridontol 2004;75:1404
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