


「恐るべき無計画男とのドイツ講演の旅」

大学浪人時代からの友人K先生から、ドイツのカールスルーエアカデミーに行かないか?と突然の誘いがあった。彼の話では、どうやら私の下顎総義歯吸着技術をあちらで紹介したいらしい。カールスルーエアカデミーを早速WEBサイトで調べると、すばらしい卒後教育システムを構築している研修所であることがわかった。彼はそこに1年ほど留学経験があり、ここの現教授Winfried Waltherとはかつてのクラスメートだったとのこと、ドイツ再訪問の際の手みやげに私の講演を思いついたのであろう。トントン拍子で話が進み、他仲間2名と訪独することに決定した。しかし、考えてみれば、この男、昔から計画性のない「行った先で何とかなるさ!」典型的な楽天型。出発日が近づくにつれ私や一緒に行く仲間達の不安は徐々にエスカレートしていった。講演時間は何分? 何を話すの? 聴講者は何名? 返事はついに訪問する時までなし。無計画性にも程度というものがある。彼の「ドイツ人は絶対に人を裏切らない」のこの意味のない言葉を信じて旅立つ他はなかった。
ドイツのカールスルーエに到着
到着後、明日からのスケジュールも不明のまま 相も変わらず行き当たりの店で夕食を済ませて床についた。翌日、何とWalther教授が自家用車でホテルまで迎えに現れたのにはビックリ!ハイデルベルグを案内してくださり、最後は自宅でディナーまで御馳走してくれた。この観光中に明日45分の講演をして欲しいといわれやっとのことで明日の予定を確認することができた。
翌日は午前からワルター先生の病院案内や教授室でのディカッションが続く。そして、教授が廊下で急に立ち止まり、「これは、これまでの講師達の写真だよ」と指差すボードを眺めた途端、電流が全身を駆け抜けた。スウェーデンのリンデ教授、アメリカのザーブ教授、そして、ブローネマルク教授など日本でもおなじみの世界の超有名人ばかりである。全くの情報不足。こんなすごいアカデミーとは知らずに来てしまった我々に、彼らは何を期待しているのだろうか?ふと気付くと、自分の体に不思議な現象が起こり始めた。緊張感が興奮に代わり、講演前には度胸が据わり、妙に落ち着いた状態になったのだ。極限の緊迫感がかえって自分を冷静にさせたのかもしれない。オリンピックで自己最高を更新する選手の試合前の気分はこういうものなのかもしれないと感じていた。案の定、過去にないベストの45分間の講演が終わり、医局員達の質問にも適確に答えることができた。それにしても、一歩間違えれば地獄である。ふと考えてみると、この男は不思議な力を持っている。いつも色々な問題は起こるのだが、何故かいつも結果は悪くない。魔力か運か。翌日は、彼をカールスルーエに残して我々3人はフランクフルトに向い、フランクフルト大学やドイツの3ヶ所の技工所見学などを行って帰路についた。
次号は、孤独を味わった南京&マカオの旅。乞うご期待!
総義歯臨床家:阿部二郎
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