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井上 孝
Vol.193

メキシコからボニータ、ボニート、

(2011.09.27)
東京歯科大学臨床検査病理学講座主任教授
東京歯科大学大学院研究科長
井上 孝 著者紹介


トルコ人の友人達にはさまれて

  「ゴォーーーーール・・・・、日本やりました、銅メダルです。サッカーでは五輪史上初めてのメダルです・・・」とアナウンサーの声が今でも鮮明に耳に残っている。1968年秋にメキシコシティで行われた夏季オリンピックである。海抜2,240メートルの高地での開催で、走り幅跳びでは、ボブ・ビーモンが記録した8m90cmが今もオリンピック記録である。日本では、頸を左右に振りながら苦しそうに走るマラソンの君原健二氏が2位に、また体操はローマ以来3連覇した記念大会でもある。

  さて、2011年9月初旬に開催された第99回FDI は、このメキシコシティにて開催された。13時間の空の旅を終え、希薄な酸素を感じながらタクシーでホテルへ向かうと、オリンピック当時に造られたままのインフラの整備不足を感じる。ホテルは32階の部屋、2,240メートルよりさらに100メートル以上高い場所での生活。富士山の5合目の生活である。階段を上ると日本とは違う息苦しさ?と高鳴る鼓動を感じる。沸点は83度とかで、パスタの茹で具合が難しいのか、大変まずい。

  会議に行くと、早速トルコ人の巨大な友人達に囲まれ、「タカシ、少し痩せたんじゃないか?大丈夫か?」と声をかけられた(写真1)。色々話がはずむ中、メキシコシティの標高の話となった。「サーキス、日本で一番高い山の名前勿論知ってるよね?」「知らない」「え、有名だろ?」「じゃ、タカシ、トルコで一番高い山の名前を言ってみろ」「・・・、知らない」と私。日本人の驕りの瞬間である。


古代都市テオティワカンの遺跡

  長い英語の会議の合間の半日の休日を利用し、メキシコシティから北東に約50キロのところにテオティワカン(Teothihuacan)なる紀元前2世紀から6世紀まで存在したと言われる宗教都市遺跡を訪れた。テオティワカン人の宇宙観、宗教観を表す極めて計画的に設計された都市で太陽のピラミッド、月のピラミッドそして南北5キロにわたる道が基点となり各施設が配置されているという(写真2)。その地では、どこからともなく、ソンブレロを被った、コロコロした埃臭い中年太りの小柄なメキシコ人が我々目掛けて集まってきた。何やら怪しげな、仮面、ペンダント、動物像などを売りに。彼らは、金銭の話に関しては日本語を巧みに操った。「ボニート、ネコ2000円」。どうみても200円程度の作りもの。ボニータ (bonita) は、スペイン語、ポルトガル語で「美しい」「 かわいい」の意味で男性形 がボニート(bonito)とか。「ボニート、太陽1万円」。どう見ても500円程度のペンダント。「ボニート、プラチナ、2つで1万円」どうみても真鍮で軽い縁取り。私が「ノットプラチナ、軽すぎる」というと、にやけながら「シルバー、3つで5000円」と訳のわからない値下げ。しかし、どうみても銀の輝きはない。私が「ノットシルバー」というと「3つで4000円」。こんなやり取りが30分ほど続き、ピラミッドに登っている仲間が戻ってくるまでの30分間を楽しませてもらった。勿論、最後には、3つ1000円で買ってあげた。一日500円程度が日当という国なので、高収入になったに違いない。ホテルに戻り、夜にバーに行き、ウエイトレスに「ボニータ、テキーラ」と言ったら、偉いサービス良く接待してくれた。気持よくさせる御世辞は世界共通かと・・・。