街に、透明な絹の糸のような雨が降りしきっています。ベランダのツタの葉には翡翠(ひすい)のような雨粒がキラキラと輝いて。草木を潤すこんな雨は「翠雨(すいう)」、やわらかな光の粒を見ているだけで心が和みます。
さて、気象庁の予報だと、今年は7月半ばまでは梅雨、その後は夏本番でかなり暑くなるそうです。今年の半夏生(はんげしょう)は7月1日でした。これは歳時記の季節の変わり目のひとつで、梅雨の後期にあたり、毎年、夏至から数えて11日目頃です。夏本番になる直前のこの時期は、古来、農家の田植えの「締切り」でした。
農耕が中心の時代、「夏至から11日目までには田植えを終えておく」という基準は、稲作をする共同体の絶対的なルールだったようです。全員に規則を守らせるのは大変ですが、そこをユーモラスに徹底してしまうのが日本人のいいところ。
まず、「もうすぐ夏になるのに、夏至から10日たっても田植えが終わらないようでは収穫がおぼつかない(=半夏半作)」とみんなに諭し、この時期に湿地に生えて来る白い大きな斑のある雑草に「半夏生(ハンゲショウ)」と名づけて、この草の花が咲くまでには農作業を終えるようにと目印を作る。
その上で、「半夏生の日は空から毒が降って来るから農作業をしてはいけない」と言い伝え、「この日にとった野菜は毒があるから」と食べるのを禁じ、当日は井戸に蓋をします。さらに「この日はハンゲという妖怪が出るから農地に行くな」という地域もあるそうです。
人間はこれで万々歳ですが、迷惑なのは「半夏生」と名づけられてしまったドクダミ科の「片白草(カタシログサ)」。たまたまこの時期に花が咲くばかりに、葉の表側の花に近い部分だけが白くなっておしろいを塗ったように見えるのを、半分しか化粧ができていないから「半化粧(ハンゲショウ)」だといわれ、それが転じて「半夏生」となったようです。
そういえば、農作物が根づくようにと、関西では「半夏生」の日にタコの料理を食べるそうですね。大きな吸盤付きのイボイボの足が8本しっかり岩を掴んでいる姿は想像するだけで強烈で、いかにもご利益がありそう。タコは低カロリーでタウリンやカリウムが豊富なので、汗で失われやすい良質な栄養を補給する意味でもよさそうです。
関東圏ではまだ馴染みのない風習ですが、今年は都内のスーパーでも大々的に宣伝していました。そのうち、節分の丸かぶり寿司のようにブレイクするかもしれませんね。
コラムニスト 鈴木 百合子
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